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その日は昼から、バーで飲んでいた

その日は昼から、ビールを飲んでいた。

アーリーリタイアしたことによるメリットのひとつは、飲みたければ昼から飲めることだ。
そう書くと、アルコール依存症みたいだが、そして、それも否定はしきれないのだが、今のところ、そうひどいことにはなっていない。
昼に飲む時は、ビールかワインを、グラス2~3杯を上限に、ゆっくりと飲む。

僕はそれほど酒が強くないので、昼から一定量以上を飲むと、夕方までだるさが続き、後悔することになる。
適量なら、昼寝の後にはすっきりだ。

場所は、Aバー。
新潟には珍しく、昼から開けているので、僕のような人種にはうってつけの場所だ。
マスターであるAくんが、一見すると温厚な好青年なので、リラックスしたかったり、あるいは、愚痴をこぼしたい輩が好んで通い、昼から飲んでいる。
実はAくん、皆が思っているほど純朴ではないのだが、迷惑がかかると悪いので、詳しくは書かない。
(若い男が品行方正なだけだったら、馬鹿みたいだ)

その時、客は僕ひとりだったので、窓からの雪景色を楽しみながら、Aくんと雑談と交わしていたところ、突然、空気が流れた。
同時にドアのきしむ音がして、ひとりの客が入ってくる。
60歳くらいだろうか。小柄で太っていて、額がはげ上がっている。
Aくんの反応からすると、半常連、というところだろうか?
カウンターに近づくと、いきなり赤ワインをボトルで頼み、「パスタを台抜きで」と注文する。
おもしろそうな男だと思った。しかし、そう思って油断したのが、失敗だった。

Aくんが厨房に入ったので、カウンターには僕とその客だけになった。
「よく降るね」
うんざりしたような口調だ。
「こっちへは出張なんだよ。住まいは東京でね。新潟に来る時は覚悟してくるんだ」
「そうですか」と僕は相槌を打つ。
「ずっと新潟なんで、寒さも雪も平気ですが、今時分の日照時間の短さには参りますね。日が差さない日が長く続くと、気分が鬱っぽくなります」

男は、僕の言葉に相槌を打つことはなく、こう続けた。
「新潟の鉛色の空は、新潟に住む人間の頭の中、そのものに僕には見えるんだよね」
一瞬、耳を疑った。きっと何かを聞き違えたのだろう、とも思った。
しかし、男は続ける。
「何でこうみんな覇気がないんだろうね。こんな惨めな土地にしがみついてさ」
男は僕の目をじっと見た。早くも酔っているようだ。
たった一杯のワインで?
あるいは、僕が気づかなかっただけで、ここに来た時には、すでにしこたま飲んだ後だったのかもしれない。

「あんたもこの土地が嫌いなら、さっさと出て行って、もっといいところに住めばいいのに」
「いやいや、僕は新潟が好きですよ」
「なんで?」
男は僕の方に向き直る。本当に驚いているような口調だ。
「米も魚もうまい。きれいな女性が多い。乱暴な人が少ない。
今の季節は、隔週くらのペースでスキーに行きます。
夏は毎週ヨットですね。海まで車で5分ですから。
小学校6年生の長男なんて、ヨットだけでは物足りないらしく、平日は学校から帰ると、リュックを玄関に置いて、そのまま自転車で海に行って、ウインドサーフィンをやってます。
海の家のおじさん達にかわいがってもらって、自由に遊ばせてもらっているみたいです」
そして、少し挑発的に加えた。「他の土地に住みたいなんて、考えたこともないです。ましてや東京になんて、ね」

はあ。
男はわざとらしくため息をつくと、身ぶり手ぶりを交えながら、捲し立てるように話し始めた。
「乱暴な人が少ない、とか、県民性とか、新潟の人は言うんだよね。
そういうところがダメなんだよ。
同じ日本人だよ! 県民性なんて、あるわけないじゃないか。
そういうつまらないところに自分たちを押しこんで、発展しない言い訳にしているだけだと、俺は思うけどね。
もっと皆、覇気を出せよ。東京には色々なやつが集まるけど、僕の県民性は、なんていじけたことを言っている奴はいないよ。
ワイワイ、楽しく過ごしてる。
新潟の連中は陰気でいけない。礼儀正しいんじゃない、ただ単に、元気がないんだ」

何を言いたいのか、半分くらいはわからなかったが、もはやこの場に留まるべきではないことは、わかった。
僕はグラスに残ったビールを一気に飲み干し、カウンターに千円札を置いて、席を立った。
そして、こういうことは滅多にしないのだが、男の目を見据えながら、少し凄んでみせた。

「郷に入ったら郷に従え、って言うだろ? あんたは他所者なんだ。もう少し謙虚でもいいんじゃないか?」

男はまたしても訳の分からないことを口にし出したが、一切耳を貸さなかった。相槌を打つこともなく、コートに袖を通し、Aくんに目で挨拶をすると、店を後にした。
背中から、
「新潟の人は、バーでの気さくな交流がお嫌いですよね!」
という叫び声が聞こえたが、もちろんこれも、無視した。

その日の夕刻、自室で原稿を書いていると、Aくんから電話が来た。
「さっきは失礼しました。気分悪くさせちゃって」
「気にしてないよ」本当に気にしてなかった。というより、すでに忘れかけていた。
「ひとりで飲んでいれば、楽しい出会いの数だけ、からまれることもあるのは、常識だもの。こっちこそ、大人気ない態度をとって、悪かった。
しかし、Aくんも大変だね、酔客の相手は」
僕の言葉が終わるか終らないかのうちに、Aくんは話し出した。
「あのお客さんには、あの後すぐお引き取りいただきました」
少し興奮した感じだった。
「ああ、そう」
僕が軽く返事をすると、彼は憤然とした口調で付け足した。「僕も、誰にだってニコニコできるわけではないので」

もちろん、知っている。
彼にはこういう、芯の強い一面があって、僕はそこを頼もしく感じている。
決して、優しくて丁寧なだけの若者ではない。
でも、一部の客はそれに気づかず、ややつけ上がる傾向があるようにも思える。
もちろん、客に多少つけ上がらせてやるくらいの度量がバーテンダーにないと、つまらないバーになってしまうのだが。
その塩梅はなかなか難しそうだ。

世の中、本当にいろいろな人がいる。
それが長年のバー通いで、僕が学んだ唯一の教訓らしきものだ。
そして、いいバーテンダーがいる街は、いい街だと思う。
それが僕が新潟を離れられない、一番の理由だったりして。

窓から見える雪景色を一瞥し、全然悪くないじゃないかと再確認した後、僕は仕事へと戻った。




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Aくんのバーのブログでも、何か僕のことを書いてくれる・・・はず。
更新は午後かな?
乞うご期待!
Aくんのブログ

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コメント

No title

 今月の休みが無いフラストレーションで来月は昼飲みに埋没しそうです。(笑)

昼飲み、いいですよね。
でも、昼から飲んだと言うと、けっこう白い目で見られます。
そのわりにはみんな、古町どんどんみたいなイベントにかこつけて、昼から宴会したりするんですよね。
まだまだ昼飲みには「言い訳」が必要なのかな? なんて考察したりして。

うまく今月を乗り切れるといいですね。
応援してます!

AバーのAです♪

お疲れ様です!ブログ読ませていただきました♪
バーテンダーの心情が描かれていて、読んでる僕自信も面白かったです!すべてのお客様が同じタイプではないので難しいところも沢山ありますが、全てを教訓としてさらに精進していきます!
古町がもっと良くなるために(´∇`)

Re: AバーのAです♪

Aくん、ブログ&コメントありがとう!
今日はゆっくり充電してますか?
魔法の液体を調合する、なくてはならない仕事ですから、これからもがんばってね!

今日は僕目線から、好き勝手書かせてもらいました(笑)。
古町がもっとよくなるためにも、また、近いうちに遊びに行きますね!

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プロフィール

内山 直

Author:内山 直
医師稼業からセミリタイアし、現在は「なんちゃんて」文筆家。
有り余る時間を武器に、興味のあることに次々と取り組みながら、妻、子供3人とまったり暮らしています。
2017年に「幸せの確率~あなたにもできる!アーリーリタイアのすすめ」、2018年に「4週間で幸せになる方法」をセルバ出版から上梓しました。
どんなにお金があっても、地位が高くても、はたまた美貌の持ち主であっても、幸福度に大差はありません。
このブログでは科学的見地から「幸福学」の啓蒙に努めています。

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